土曜日, 9月 18, 2010

早起きは三文の得


「何で走るの?」

この20年以上もう何度きかれたことだろう?
多くの場合は、飲み会のそれも話題につきた頃が多い。話の肴につきたころ、あってもなくても良いような、ちょうど腹も酔いも満たされたころのお新香のよう話題なのだ。

毎度の質問に自分もありきたりの答えをすのだが、それもいい加減飽きてきた。だからどうせなら少しは気のきいた返答でもして、質問した人をなるほど感心させてみたくもなる。


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この季節の欧州の夜明けはのんびりとしている。そろそろ秋分の日を迎えるというのにサマータイムを続けるものだら、6時を過ぎても真夜中のように暗い。ほどよい時差ボケのおかげで目覚めは良く、水を一杯だけ飲んで着替えると部屋を出た。ロビーの玄関から外に出ると前夜の雨で濡れた路面からひんやりとした空気が身を包む。

ロビーでもらったガイドマップを片手にゆっくり走りだす。駅裏のダウンタウンにあるこのホテル周辺は、アラビア語を看板に上げた店が並び、出稼ぎ風のエキゾチックな顔立ちをした労働者が朝市の準備をしている。曇ったショーウインドウに中古の電化品を並べた窮屈な店の角を曲がり、少し広い通りに出てそのままダウンタウンを抜ける。

 重いトランクを引きずって歩いた前夜には果てしなく遠く感じた道のりだが、2,3分も走ると中央駅が見えてくる。閑散とした駅前のトラム線路をいくつか越えてしばらく行くとカールス門がでんと構えている。そこを抜けるとノイハウザー通り。広い石畳の通りの両側には歴史を感じさせる建物 - どれ一つとっても東京にあったら観光地になってしまうような立派な建物なのだ - が立ちならぶ。日本の渋谷のように夜明かしした若者がたむろするわけでもなく、人気のない通りを清掃車がせっせと前夜のゴミを集め、朝を迎える街をきちんと綺麗にしていく。

そのまま目抜き通りを進むと有名なマリエンプラッツに届く。ここからはこの街の観光名所の核心部。仕掛け時計台の前を過ぎ、巨大な双頭の聖母教会、果てしなく大きい王宮の脇を通り、バイエルン国立博物館の横から広大なイギリス庭園に入る。

イギリス庭園大都市周辺にある公園としては世界有数の規模らしい。公園の中には水量の豊富な川が何本も走り、芝生と森が延々と広がっている。

そろそろ夜明けを迎える公園で同じようなジョガーに何人かすれ違った。どこの国にも同じような人たちがいる。ただ違うのはペースだ。日本で走っていて人に抜かれることは少ない。まして女性に抜かれた経験など記憶の限りない。それなのに欧州でジョグをすると、うかうかしてると平気で白髪のおじさんに抜かれる。この日も数十m前のi-podにセパレートランウエアに身を包んだ女性をとうとう抜かすことができなかった。

走り始めてそろそろ30分。ようやく夜明けが訪れた。あまりにも広くてとても一周することもできないので、中国の塔が見えたところで引き返すことにした。帰りはイザール川沿いを寄り道して市内に戻る。

イザール川は、街南部のアルプスのふもとから流れてくる水量が豊富な川だ。この付近の地質の影響だろうか。都市河川とは思えないほど清廉で水の色が白っぽいエメラルドをしている。この街がため息が出るほど完璧に映る理由の一つがこの「水」にあるだろう。


すっかり明るくなり、先ほど通り過ぎた時にはひっそりしていた街もすっかり活気づいてきた。いかにもゲルマン的なビジネスマン風がいそいそと進む歩道を縫って走り、再び中央駅前を通って、あのちょっときな臭い通りに戻る。ポケットに手を突っ込んで屯する若者の視線をかわすように通り抜けて、少々この通りには場違いなわがホテルの玄関に戻った。

1時間と少し。ほどよいペースだったから12,13km程度だろうか。
夏場に汗びっしょりのうんざりする朝ばかりだったから、これが同じ地球なんて、随分と不公平なもんだと文句も言いたくなるほど気持いジョグだった。

約束の時間まで1時間。シャワーを浴びて朝食のビュッフェをゆっくり楽しむだけの時間はある。そしてそのあとが本当の時分の仕事である。

ミュンヘンに滞在した5日間。一緒に訪れた仕事仲間と夜は毎日ビールと白ソーセージで楽しいひと時を過ごした。それでも昼間は毎日通勤電車にゆられて仕事、この街を観光する時間はとれなかった。もちろん仕事で訪れたのだから当たり前なのだけれど。

それでも自分は毎朝少しばかり早起きした1時間を使うことで、この街の見どころと言われるところ ‐おそらくガイドブックに紹介されている建造物、公園、広場、ショッピングモール‐ は一通り回ることができた。美術館にある有名な絵画、教会の素晴らしい内装やフラスコ画までを楽しむことはできなかったけど、それでも、さまざまな都市ランキングで上位を誇るこの街を十分楽しむことができた。

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国内外問わず、出張のかばんに靴と少しだけ余分なウエアを入れる。そして早朝にその街をめぐり、素顔を感じること。そして少しだけ得した気分になって、その日その地ではじまる仕事に臨むこと。

それが走り続けて良かったと思う瞬間のひとつである。

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