9月の休日予定をパズルのように妻と解きながら、僕のハセツネの試走の日が決まった。
生憎その日はまだまだ残暑厳しい天気予報だったけど、せっかくうまったパズルをもう一度崩す分けにもいかないので、予定通り荷物を用意して早朝の五日市に向かった。
秋のレース時には第一関門の月夜野駐車場まで2Lの水を持っていくのだけど、この日は3Lを背負った。おまけに途中でのリタイヤも想定して、1周分に少し余裕を見た2000kcalちょっとの食糧、防寒具、ヘッドライト、携帯、テーピング等などをキャメルバッグにつめる。背負ってみるとズシリと重い。
ずいぶんと鈍いペースで、武蔵五日市の駅前から71kmの長い旅に向けて一人ひたひたと走り始めた。
まだ7時前なのに蒸し暑く汗がすぐに噴き出てくる。26、7度はあるだろうか。早く標高の高いところに登ってしまおうと先を急いだ。
今熊山、刈寄峠、市道山と過ぎて標高は稼ぐけど、日も高くなるのであまり気温は下がらない。発汗量はすさまじい。短パンは海水パンツのようになり、サンバイザーのつばからは絶えず汗がしたたる。ペースは上がらないのに心拍は高い。高温の中のランニングの典型的症状であるが、辛さまでは感じないので、少しペースをゆるめて焦らず走ることにする。
醍醐丸で小休止する。ここまで2時間15分。一周10時間30分ペースくらいだろうか。日没前の下山ぎりぎりだけど、ライトもあるので無理はしまい。
予備に用意した500mLの水がおいしく一気に飲んだ。その後ハイドレーションの残りの水を見て愕然とする。すでに残り1Lちょっとしかない。ここまでで2L弱の水分をすでに飲んでしまった。
地図を広げて水場を確認。三頭山の先まではおろか、西原峠までも持つまい。浅間峠の先の日原峠付近に滴マークがある。そこで給水することにした。
そこから1時間あまり、水を節約しながら走ってようやく日原峠に着く。右手の斜面をコンタリングする下山道を少し進むと勢いよく水の流れる水場がある。水を手ですくって何口かがぶ飲みした後、ハイドレーションとペットボトルすべてに3Lつめた。これで御岳山手前の水場まで持つだろう。気を取り直して走りはじめる。
その後三頭山までは問題なかった。汗かいて水分補給して、時々カロリーも補給しての繰り返し。。。。。
初めに異変に気付いたのは 鞘口峠の当たりだろうか。
まず水が妙にまずく感じるようになった。口にしても飲みこむのがつらい。
そのうち無意識に口の周りをなめていることに気づく。身体が塩気を欲している。
月夜見の駐車場で休憩を取る。かばんをあけると、残りの食糧はおにぎり1個と、ドライフルーツ、ジェリー飲料。ナトリウムを補給できるのはおにぎりと、ドライフルーツに交じった乾燥梅の塩気くらいである。ドライフルーツからしょっぱい乾燥梅だけつまんで口にした。
気を取り直して御前山に向かうが、登りの途中から急にペースが鈍った。力が入らない。汗は相変わらず滝のようにかくが、水が飲めない。しかたなく最後にとっておいたおにぎりを食べる。しょっぱさが身体に染みるようにおいしい。水が飲める状態になったので補給する。またひたすら登る。
御前山の頂上から少し下った所に水場がある。しばらくそこで考えた。水も食糧もある。でも手持ちの「塩」はない。ここに来るまで7時間30分あまりのうちに6L以上の水を飲んだ。
塩分が不足している。
これ以上山道を進むのはリスクがあるように思えた。
御前山から南東に伸びる尾根のエスケープルート、標高差1000m以上を1時間あまりで下り、車道に出た。車道沿いのしがない商店の前にある自販機でスポーツドリンクを買い、一気に飲み干した。これほどスポーツドリンクがおいしいと思ったことはない。
そこから武蔵五日市まで1時間30分、とぼとぼジョグして戻った。
水、食糧には十分注意した。外傷、捻挫にも気をつかった。ライトの球切れ、電池の予備にも配慮した。防寒もしかり。山を走る時は、特に一人であれば、あらゆるリスクを想定して走るのが、一種の義務である。
ところが、塩がこうした事態を生むとは思いもしなかった。まさに想定外である。
振り返ってみると、10時間あまりの時間に8L以上の水分を失っている。それとともに電解質の多くが汗として身体から流れ出た。相当量のナトリウムを補うには、通常の食糧に含まれる塩分ではとても足りなかった。
その日結局70kmほど走ったけど、追いこめなかったので筋肉痛はそれほど残らなかった。その変わり2,3日はしょっぱいものばかりが欲しい状態が続いて、ラーメンを汁まで飲んで周りの人を驚かせた。
それが「水中毒」という症状であることを知ったのは、その後妻と話た時である。水中毒は棄権な状態で、水飲み競争で大量の水を飲み、死亡した例もあるとのこと。
運動時に大切なのは、水を補給することではない。身体の中の電解質のバランスを保つことなのだ、ということを改めて痛感した。
それにしても身体は正直である。あれほど水を不味く感じたことはない。逆にしょっぱいおにぎりをおいしいと思ったことはない。
食や飲料は、ただただ身体の欲求に素直に応じるのが、一番健康的で身体に良いのではないか。
我々が気をつけなければならないのは、身体の欲求を抑えることではなくて、その後の惰性を抑えることなのではないか、と思った次第である。
まだまだ学ぶことはたくさんある。
土曜日, 10月 01, 2011
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