土曜日, 7月 24, 2010

冨士登山競走

冷静に考えればなんとも効率が悪い。

体重60kgのランナーが加速度9.8m/s2の地球上で標高差3000mを登る。得られる位置エネルギーは計算上1764kJ。カロリー換算で約420kcal。21kmの水平距離もともなう?水平移動は物理的にはなんのエネルギーの獲得にもならない。

一方3時間半の間に消費するカロリーはハートレートモニターで推定3000kcal。位置エネルギーへの変換効率はわずか十数%でしかない。残りの無駄となるエネルギーは大量の汗の気化熱として真っ青な空に昇華していく。

せっかく稼いだわずかな位置エネルギーも、頂上から5合目までのうんざりするような下山道で半分は消費される。がくがくの膝でブレーキをかける瞬間、靴と砂礫の摩擦エネルギーとして放散される。残りの半分は富士スバルラインから下山するバスのタイヤとアスファルト路面の摩擦で消費され、富士吉田市役所につくころには差し引きO になる。

こうして太陽の光エネルギーをせっせとためた食物という高次な化学エネルギーを低級な熱エネルギーに変換して放散していく。熱力学第二法則には逆らえず、ちっぽけな自分もこの宇宙のエントロピー増大に少しだけ寄与していくのだ。

7,8合目のつらい岩場で、「何でこのレースに出てるのだろう?」と自問しながら、そんな皮算用が頭に浮かんだ。そんな風に考えてしまうと、この膨大な宇宙の中で自分はずいぶんちっぽけなことに精を出しているなあとむなしくもなってくる。それでもこのレースで2500人が頂上を目指している。そして自分より後ろに2400人近くが延々と連なっているのだ。

後ろをふと見ると、はるか雲海の下までランナーの列が糸のように折り重なって連なっている。なんとなく芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を彷彿させるぞっとする光景だ。ここで休めば延々連なる屍のような人々に黙々と追い抜かれつづける。カンダタのように糸を切ることもできないから、歩きづづけるしかあるまい。順位が落ちることを本能的にさけるように、ただひたすら足を前に出す。

ようやく頂上のゴールが見えたところで、「鹿島田さーん」と応援の声に気づき、顔をあげると許田君の顔が見えた。ゴールラインを越えてふらふら座るところを探していると俊介がいた。「30秒くらいしかかわりませんよ」とのこと。彼には馬返しまでの登りで軽々と抜かれたが、五合目以降足がつってペースが落ちてしまったらしい。このレースの難しさである。僕のタイムは3時間31分台。自分のベストより20分以上遅いが、18歳の初出場タイムはかろうじてうわまった。

五合目通過は1時間40分台である。ちなみにこのレース、山が強い人は五合目までより、五合目以降のタイムの方が速い。同じくらいがいい配分のようである。僕は五合目以降が10分遅いので、前半ペースが速すぎた計算になる。

頂上は、今まででも一番くらい気温が高く、レース後の汗に濡れたランニング姿でも冷えることはなかった。それでも狭い頂上付近に汗の臭いに蒸れた男どもでちょっとした満員電車のような状態である。長居しても気分もよくないので一杯水を飲んで、俊介とさっさと五合目に下った。お決まりのうんざりする延々とした下山道を下ること1時間10分程。

ようやく着いた五合目で弁当を受け取る。3つの出来合いのおにぎりをぱくぱくとおなかに放り込んで、冷えた麦茶を飲み、さあて妻がいつ頃くるか、と時計を見た思った矢先、「真理子さんじゃないですか?」と、俊介がいう。とぼとぼと歩く妻が見えてきた。え、少し早すぎる?
「あと30秒!」の掛け声に頑張ったがあと1分で八合目4時間の関門をクリアできかったらしい。
最近のトレランのタイムを見る限り、4時間半ぎりぎりでいける、と踏んでいたのだが、あと一歩足りなかった。それに聞けば渋滞も結構影響したらしい。残念だが来年以降にまたチャレンジするしかない。

結局完走率は男子でも50%程度で女子は40%程度とのこと。優勝タイムも2時間53分とそれほど冴えたタイムもない。自分のベスト順位のタイムを見ると、10~15年前と同じくらいのタイムだ。
昨今はトレランブームで各レースともレベル向上し優勝タイムが上がっているように感じるが、このレースだけは20年以上前と同じレベルで競っている。多分、このレースが昔から、山岳走だけでなく、陸上系の強い選手も参加するそれなりにレベルの高いレースだったのだろう。

来年は3時間10分台が目標。


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<レースの記録を忘れていたので後から記載>  START 18:30  日没して約30分、暗闇の中スタート。序盤はスキー場の中の登りとトラバースを繰り返す。 2,30分で下りからロードに出てそこからは比較的平坦のパートが続く。1時間30分くらいで斑尾山に向けて急登が始まる。...