月曜日, 9月 29, 2008

三河の森



チェコ以来2ヵ月ぶりのレース。少々気取った言い方をすれば「2ヶ月ぶりに公の場」に顔を出したことになる。森に通いつめた夏までの生活から一点、毎週末を家族で過ごす日々は安らかではあるけれど平凡な日々。すっかり普通の人に戻った今、久しぶりの遠征を迎え中学生ののように胸が高鳴った。 

しかも今回は、招待選手として参加させてもらう栄誉を頂いた。他の招待選手には山耐を優勝したかの相馬さんや、ランママの佐藤先生がいる。一流の方々と交流するチャンスである。どちらかというとミーハな気分。 さらに行きは柳下君の車。いつも刺激的な村越さんや、TJARに参加した伊藤さんも一緒。なんとも充実した遠征になろうことか。

行きの車から、早速魅力的な世界に引き込まれた。話題は自然とTJARへ。富山湾から日本アルプスを縦断して静岡に至る400kmのレース。キワモノと見るか、壮大なロマンと見るか。もちろん受け取る人によるが、語り手のハートにも左右される。満天の星が輝く夜空の下アルプスの稜線を歩くロマン。スクリーンの中だけで広がる冒険の世界がそこでは現実。伊藤さんの話を聴けば、このレースを一生に一度はチャレンジしたいと思う人が増えたに違いない。 

三河に到着後は佐藤先生のPOLARを用いた心拍計の講義を聴き、久しぶりにトレラン関係の人々と話をした。笑顔の耐えない佐藤先生。簡潔な会話にスポーツマンらしい気風を感じる相馬さん。そう、今時点で「ただの人」の自分にとって、こういうレベルの人との平凡な会話でもとても刺激的。  

肝心のレースの朝。お立ち台で紹介を受ける栄誉。招待されたからには今の自分のベストをつくすべし。しかし残念ながら途中から失速。WOC後のトレーニング不足よりも、2週間前からだらしなく引きずっていた風邪が悪かった。途中からファンランモード。しかし久しぶりに走る三河の森はいい。WOC2005の思い入れを差し引いても気持ちよい森である。「シングルトラックでも見通しのよい森」が素晴らしいと佐藤先生がおっしゃっていた。なるほど関西にはない珍しい森かもしれない。若干ロードが多い印象はあるが、そういう里山的な良さを感じるコースだった。おまけにコース表示が豆でコンマ何kmまで表示してあるところがいかにもオリエンティアらしい。 

さて結果は、大助が2位以下を圧倒して優勝した。24kmアップ800m以上のコースでキロ4分は脱帽である。「WOC前よりいいトレーニングできている」自信を持って答える彼は今本当に強い。11月の第二子という節目を迎えるが、二児のパパとしてますます頑張って欲しい。 

2週後は山耐。この調子だと目標にしていた9時間前半はちょっと厳しい。ただ、タイムよりも、日没直後に連なる山々のぼやけた輪郭、真っ暗な尾根道を自分のライトだけで進む尾根道、そんな山耐ワールドが楽しみである。(写真:上林さん提供)  

土曜日, 9月 20, 2008

ドレイクの方程式

というものがある。

SFの好きな人は知っていると思うが、この銀河系に知的生命体が存在する星の数を計算で求める方程式である。そんなロマンチックな式があるんだろうかとわくわくしてその式を見ると少々落胆する。

N=R*×fp×ne×fl×fi×fc×L

考案者の名前付きで仰々しく流布されるには、少々稚拙な方程式にも思える。しかもその係数は実際に計算できない値ばかり。例えばneは「1 つの恒星系で生命の存在が可能となる範囲にある惑星の平均数」などである。こんな係数に数字与えられるのか?

この式を使っても、本当に知的生命のいる星の数を知ることはできないだろう。しかし、この式は、知的生命体が生まれる可能性を探ぐっていく上で、その条件、あるいは論点を整理してくれる。

そういう意味では、この方程式は大いに役立つし、有名になるだけの価値があるのだろう。

同じようにまねをしてみたくもなる。例えばこんなのどうだろう?

カシマダの方程式

ある国Aのある年において、WOC予選を通過できる選手の数Naを与える方程式

Na=R*×fp×ne×fl×fi×fc×L

R*   :その国で1年間に生まれる子供の数
fp   :その中でオリエンテーリングと出会い、面白いと思う人の割合
ne   :その選手の中で、走力的素質が十分にある選手の割合
fl    :その選手の中で、技術的素質が十分にある選手の割合
fi:   :その中で上を目指して十分なトレーニングの努力を継続する選手の割合
fe   :その選手の中で、怪我、病気その他不可避な外的要因なく競技を続けられる選手の割合
L   :ピークパフォーマンスを出せる平均的年数

ドレイクの方程式と違って、この方程式の左辺、つまりNaは既知である。
例えば今の日本は、Naは男子で0.5未満、女子は約1である。

各国連盟の強化担当者がこの式に興味を示してくれるだろうか?
いやこれだけでは当たり前。
では、Naを大きくする方法。例えば今の日本でNaを2,3あるいは5、10にする方法をサジェストできたら、それはとっても魅力的な式になかもしれない。

それにはそもそも各係数がどの程度の数字かを想定せねばならない。

これ自体大きな議論になるが、かなり私見を交えると以下の数字になる。
例えば日本男子を考えた時、

R* =500,000
fp=0.0004
ne=0.01(100人に1人)
fl=0.2(5人に1人)
fi=0.2(5人に1人)
fe=0.5(2人に1人)
L=10

つまり

1年間に生まれる男子50万人
そのうちオリエンテーリングを始める男子50万人×0.0004=200人
そのうち、十分な走力の才能がある人200人×0.02=1人
そのうち、十分な技術的才能がある人2人×0.2=0.4人

そのうち、十分なトレーニングの努力ができる選手の割合0.4人×0.2=0.08人

そのうち、幸運にも怪我などしないで順調に成長できる人の割合0.08人×0.5=0.04人

つまりそのような選手25年に1人。その選手が10年活躍すれば、そういう選手がチームにいる可能性は

0.04×10=0.4人

となる。
ま、机上の空論ではある。でももう少し先に進もう。

このどこかの数字を大幅に改善することが、良い選手を多く生む条件となる。

例えば、
fpを大きくするのは、オリエンテーリングの普及、誰彼問わず、数多くの選手に始めてもらうこと。
neを大きくするのは、身体的能力の高い選手、あるいは素質のある選手に多く挑戦してもらうこと。
flを大きくするのは、ナビゲーション能力の素質のある選手に多く挑戦してもらうこと。
fiを大きくするのは、そういった素質のある選手を育てる環境を改善すること。
feは、怪我や病気などを予防すること。

さて、では、強化の秘訣となる改善策は何か? 上記カシマダの式から何かは見えたか?
やっぱり方程式は方程式。残念ながら何かを語ってくれるわけではない。当たり前だが、ここから何を読み取るかは人によってことなる。
やっぱり、強化策を導き出す方程式の創設者として名をはせることはできなさそうである。

ただ、こうして整理してみると分かるのは、強化というのは、競技の裾野に広く渡っているのだということ。本当の意味での強化策というのはピラミッドの頂点に関係している部分は限定的で、頂点を摘んで上げる策を練っているだけでは不十分なのだ。
裾野全体を見渡して、普及や広い競技層とリンクすることが効果を生むことは間違いないだろう。そろそろそういう議論に本格的に遷るべき時に感じる。
お隣のスポーツを見ていても。

木曜日, 9月 04, 2008

秋のシーズン

ある駅の構内にある本屋。
30代のカップル。男の胸にはスリングに包まれた乳飲み子。女は去り行く夏を惜しむかのようにトロピカルなTシャツ姿。

「まだ時間あるわ、ちょっとよろうよ」
「ああ、でもこんなとこにあるかなあ・・」

「へえ、あった、しかも色々あるぜ」
「はは、この題字ださっ、あっヤギクンのってるのってる!」
「本当だ。げっ1300円、高!」
「だめよ、1冊だけよ、どれにする?」
「5人の肖像・・、マサトさん表紙かあ・・・、でもこれかな」

飛び乗った電車で早速雑誌を眺める二人。赤ん坊はあきれた様にすやすや。

彼女がトレイルに復活する日も近し。

月曜日, 9月 01, 2008

いざという場面

大垂水峠からの急斜面を登って城山についたのは10時頃だった。
8月最後の休日だったが、この2,3日東京を襲ったゲリラ雷雨が所によって尾を引いていたせいか、いつもなら中高年の登山客で賑わう茶屋も閑散としていた。

その閑古鳥がないている茶屋では、今時見かけないピンクの電話で話している若者がいた。声は聞きとれなかったが、しきりに何かを電話先に伝えている。何かハプニングがあったのだろうか。しばらくして電話を切ると、茶屋の兄さんと二三会話をしたあと、周りをおびえるような目で見回して、広場の隅のベンチに座った。何かを待っているらしい。

日が高くなるにつれて蒸し暑さが増してくる。体調も今ひとつ良くないせいか、粘っこい汗ばかりが額に流れる。思いのほかここまで時間がかかった。午前中という約束で娘を実家においてきたが、このペースだと帰宅は昼を過ぎてしまう。休みたがる身体を説得するように高尾方面に走り出した。

高尾山までの尾根を2,3分走ったところで、10人程の登山客が立ち止まっているのに遭遇した。そして城山のあの電話の意味がわかった。

輪の真ん中に初老の男性が倒れていた。低山登山の模範的装備をしたその男性は、意識はなく顔面蒼白。通りかかったトレラン風の女性が気道を確保し、男性が心臓マッサージをしている。
「30回に1回息を吹き込んでください!」女性はしきりに指示を出していた。
その場に脚が張り付いたように立ち止まった。自分に何が出来るか分からないが、そのまま素通りはできない。
やがて、ザックの中から男性の身分証明書を探したり、衣服の締め付けを解いたり、兎に角その場できることを周りの人で協力してやりはじめた。腕の力が必要な心臓マッサージは男性が交代でやり、自分も参加した。人間の胸はこんなに弾性があって力強くできているのか。だけど自分がいくら胸を押しても、男性の表情はひとつかわらない。1人の尊い命を目の前に、自分の無力さに情けない気分になってきた。

20分くらいたっただろうか。空からはヘリコプターの救急隊が開けた尾根上に懸垂下降で到着。またその直後にバイクで城山に登ってきた救急隊が駆け下りてきた。
ものの数分でAEDをセットし、ハーネスに男性を包み込むと、救助隊に付き添われて、空中停止するヘリコプターに吊りこまれていった。

1人登山だったようで、たまたま後ろにいたトレランパーティが不自然に倒れる姿を見たようだ。
男性のその後はわからない。人工呼吸や心臓マッサージをしている間、いくどか自発的な呼吸の音が聞こえたような気がした。また目がかすかに動いたように思えた。今はただただ無事を祈るばかりである。

あの場に集まった人は皆通りかかった登山客である。そして、その中で1人、救急救命の知識を持った女性がいたからこそ、少なくとも皆で最善を尽くすことが出来た。

自分も野外活動をすることが多いが、正直きちっとした知識を身に着けているとはいいがたい。会社の講習等で実習した覚えもあるが、いざ実践に使えるかといわれれば心もとない。
合宿、練習会、トレイルランニング。そのような場で同じことが起きたら・・・・、もし自分がわずか1,2日の訓練を受けることで、誰かの命を救うことが出来るかもしれないとしたら・・・。そう考えると、救急救命についてきちっと学ぶべきだ。今更ながらそう感じた。



信越100mile 2022

<レースの記録を忘れていたので後から記載>  START 18:30  日没して約30分、暗闇の中スタート。序盤はスキー場の中の登りとトラバースを繰り返す。 2,30分で下りからロードに出てそこからは比較的平坦のパートが続く。1時間30分くらいで斑尾山に向けて急登が始まる。...