月曜日, 9月 01, 2008

いざという場面

大垂水峠からの急斜面を登って城山についたのは10時頃だった。
8月最後の休日だったが、この2,3日東京を襲ったゲリラ雷雨が所によって尾を引いていたせいか、いつもなら中高年の登山客で賑わう茶屋も閑散としていた。

その閑古鳥がないている茶屋では、今時見かけないピンクの電話で話している若者がいた。声は聞きとれなかったが、しきりに何かを電話先に伝えている。何かハプニングがあったのだろうか。しばらくして電話を切ると、茶屋の兄さんと二三会話をしたあと、周りをおびえるような目で見回して、広場の隅のベンチに座った。何かを待っているらしい。

日が高くなるにつれて蒸し暑さが増してくる。体調も今ひとつ良くないせいか、粘っこい汗ばかりが額に流れる。思いのほかここまで時間がかかった。午前中という約束で娘を実家においてきたが、このペースだと帰宅は昼を過ぎてしまう。休みたがる身体を説得するように高尾方面に走り出した。

高尾山までの尾根を2,3分走ったところで、10人程の登山客が立ち止まっているのに遭遇した。そして城山のあの電話の意味がわかった。

輪の真ん中に初老の男性が倒れていた。低山登山の模範的装備をしたその男性は、意識はなく顔面蒼白。通りかかったトレラン風の女性が気道を確保し、男性が心臓マッサージをしている。
「30回に1回息を吹き込んでください!」女性はしきりに指示を出していた。
その場に脚が張り付いたように立ち止まった。自分に何が出来るか分からないが、そのまま素通りはできない。
やがて、ザックの中から男性の身分証明書を探したり、衣服の締め付けを解いたり、兎に角その場できることを周りの人で協力してやりはじめた。腕の力が必要な心臓マッサージは男性が交代でやり、自分も参加した。人間の胸はこんなに弾性があって力強くできているのか。だけど自分がいくら胸を押しても、男性の表情はひとつかわらない。1人の尊い命を目の前に、自分の無力さに情けない気分になってきた。

20分くらいたっただろうか。空からはヘリコプターの救急隊が開けた尾根上に懸垂下降で到着。またその直後にバイクで城山に登ってきた救急隊が駆け下りてきた。
ものの数分でAEDをセットし、ハーネスに男性を包み込むと、救助隊に付き添われて、空中停止するヘリコプターに吊りこまれていった。

1人登山だったようで、たまたま後ろにいたトレランパーティが不自然に倒れる姿を見たようだ。
男性のその後はわからない。人工呼吸や心臓マッサージをしている間、いくどか自発的な呼吸の音が聞こえたような気がした。また目がかすかに動いたように思えた。今はただただ無事を祈るばかりである。

あの場に集まった人は皆通りかかった登山客である。そして、その中で1人、救急救命の知識を持った女性がいたからこそ、少なくとも皆で最善を尽くすことが出来た。

自分も野外活動をすることが多いが、正直きちっとした知識を身に着けているとはいいがたい。会社の講習等で実習した覚えもあるが、いざ実践に使えるかといわれれば心もとない。
合宿、練習会、トレイルランニング。そのような場で同じことが起きたら・・・・、もし自分がわずか1,2日の訓練を受けることで、誰かの命を救うことが出来るかもしれないとしたら・・・。そう考えると、救急救命についてきちっと学ぶべきだ。今更ながらそう感じた。



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