火曜日, 6月 26, 2007

ドーピング危機一髪

喉に異変があったのは前の週の金曜日


金曜日に恒例の、「業務効率化プロジェクト」で議論が白熱、あまりコンディションは良くないのに遅くまで会議室でしゃべってたせいか、家に帰る頃には喉に違和感を感じた。全日本まで10日もないのに、やな時期にきた。

翌日の土曜日は朝から明らかに喉が痛い。土日は特に遠出の予定もなかったので娘を検診に連れて行く程度で、家でのんびり過ごした。全日本前でもあったし日曜は激しい雨だったので思い切って2日ともトレーニングはオフに。


しかし次の週になっても喉の痛みは取れない。ガラガラ声になり、痰と咳が出る。妻も心配してか火曜日の朝食卓に「葛根湯」が出ていた。
「ちゃんとお薬飲んで治さないと週末北海道にいけないよ」

思わず妻の言葉に素直に薬を飲みそうになったが、3年前まだ日本代表だった頃、合宿等で説明を受けたJADAの薬物リストがふと頭に浮かんだ。だけど手元にリストはないし、朝で調べる時間もない。念のため薬を飲むのをやめると、妻は驚いたように反論した、「まさか、そんな大丈夫でしょう?」
(代表選手ならいざ知らず、なぜあなたがそこまで気にするの?)そんなニュアンスもあったかもしれない。自分でも(検査引っかかる確率はすごく低いし・・)という気もした。でもスポーツ選手の端くれとしてのプライドがあったのかもしれない。

「いや、だめだやめとこう」
そういって、あきれた顔の妻を残して家を出た。

夕方妻からメールが入った。電話してみると
「やはり葛根湯はやめた方がいいみたい。のどの薬も1週間以内は気をつけた方がいいって」薬屋に問い合わせた結果を教えてくれた。

週末になって若干良くなったが千歳に向かう飛行機でも咳がまだ出た。レンタカーでルスツに午後着いて、夕方裏のスキー場のある山をジョギングで登った。身体は思ったよりよく動いた。喉の痛みはうっとおしいがレースにはそれほど影響ないだろう。

日曜日は、高速な道走りと極端にスローペースな溶岩地帯のコンビネーションで予想外のコースだった。昨日の感触通り身体は比較的動いた。それでも熊笹や激しい溶岩地帯ではストレスが溜まるオリエンテーリングだった。それほど良い感触ではないが、ある程度のミスは許容されるレースだろうから、もしかしたら3位にはいけるかもしれない、そう感じてゴールした。

オープンクラスで出走した妻が、親切な運営の女性に娘をあずけている予定だったので、ゴール後大急ぎでバスに戻った。

汗だらけのまま会場に戻って、会場の入口で靴を脱ごうとしている時にふと声を掛けられた。
「ドーピング検査の対象です。このパスを着用して1時間以内にコントロールステーションまで来てください」
シャペロンと呼ばれるドーピング検査の誘導員である。後で知ったことだがゴール直後から僕の後を追っていたらしい。
一瞬と惑ったが、あたってしまったものはしょうがない。

事情を説明して友人たちに娘をもう一度預け、自分はとりあえず汗だけ拭いて着替えて、「じゃあ20分で戻るから」とあまり根拠もなく伝えて、シャペロンとコントロールステーションに向かった。

ホテルの道を隔てて反対側のタワー内にあるステーションは、大きな宴会場のVIP用待機室で、ふかふかのソファーが並び、思ったより居心地の良い場所だった。
「レース後はなかなか尿意は催さないものです。焦らず水分とをってリラックスしてください」
そうはいえ娘を預けているし、妻もいつ戻るかわからないので、早く帰らなきゃ。

500mlのペットボトルとポカリスエットを飲めるだけ飲んだ。ところがいくら飲んでもなかなかこないものだ。 お腹がだぶだぶになっても尿意はやってこない。
幸い番場さんや篠原と気安い選手も当たっていたので、途中からあきらめもついてたわいもない話をしながらのんびり待った。

結局サンプルを取れたのは、ゴールしてから3時間近くたって合計3Lの水分をとった後である。
(後で気付いたことだが、一度ステーションに来れば、あとはシャペロンの監視のもとどこにいてもよいとのこと。ルールを理解することはいろいろな意味で大切。)


ドーピングテストの手順は徹底している。悪意ある者の策が入り込む余地が針の穴もないよう考えられている。基本的に信じられるのは自分のみ。サンプル瓶を選ぶのも、照合用のナンバリングもサンプル採取も分ける(よくいうAサンプルとBサンプル)のも、ビンの蓋を閉めて箱に入れるのも、全て検査員の立会いの元で自分の手で行う。逆にいえば、「あなた自身ですべてやったでしょ、だから結果は間違いないはずですよ」といわれてるような気がする。

すべてが終わって、サインを終えて完了。 かれこれ30分かかかったろう。ゴールしてからはすでに4時間近い。
「3週間くらいでHP上に結果が出ます。結果は照合No.のみしか出ません。もし何か(陽性)なければ特に連絡はしません。」


はじめて経験したがドーピングテストは大変だ。オリンピックスポーツなどでは大いにクローズアップされているが、オリエンテーリングでもWOC,ワールドカップ等で実施されている。スポーツをやっていて一度は経験するべきかもしれない。そういう意味では今回はラッキーだった。

ドーピングテスト中に、検査員の藤井さん経由で今日のレースの結果を確認して欲しいと依頼していた。表彰式の時間になっていたし、最終結果がどうなっているか分からなかったからだ。

「かっしーさん優勝ですよ」携帯で結果を確認してくれた検査員の一人の片岡が教えてくれた。

「えっ」 狐につままれたよう。半信半疑で会場に戻ってみると、善徳や俊介、柳下君が祝福してくれた。 妻もとてもよろこんでいる。

改めて、あの時葛根湯を飲まなくてよかった。「もし飲んでいたら」と考えるだけで恐ろしい。マイナスポーツとはいえ日本選手権者が失格というゴシップは、自分はもちろんオリエンテーリングにとっても大きな打撃になっていただろう。

オリエンテーリングもドーピングコントロールのある立派なスポーツだ。選手には是非アンチドーピングの知識、意識を持って競技を続けて欲しい。





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