朝4時前にセットしたアラームが鳴った。寝過せないという緊張感のせいか眠りは浅かったが、体はだるかったので次のアラームまで数分うずくまっていた。昨晩のバンケットが終わってから数時間、考えてみればさすがに少し強行軍過ぎるかもしれない。これからの36時間の予定を考えて少し後悔した。
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昨日は最終日のリレー。日本のアンカーとして第3走者を務めた。理由は分からないが身体の動きが悪く、集中力も100%発揮できず、鈍いレースだった。疲労困憊したゴールでチームの面々が快く出迎えねぎらいの言葉をかけてくれた。「ごめん、走らせてもらったのになあ」思わず出た言葉に、「いや、いいレースでした」と力強く答えてくれたチームメイトの言葉に救われる気分だった。22位というリザルトは過去と比べても悪くない。1走、2走の大助、小泉の力走が好結果をもたらしてくれた。反面自身はまったく振るわない走りで脚を引っ張ってしまった。
でも細かい反省は後でじっくり考えよう。とにかくWOC2008は終わった。
旅の終わりはいつも慌しい。レース後の会場はすでにフラワーセレモニーも終わり、後片付けモード。ゆっくりレースを回顧している暇はない。テントに戻り急いで着替えて宿へ向かう。
夜のバンケットまでの数時間で荷造りを済ませなければ。大急ぎで荷物をトランクに詰め込んでいると、「お疲れ様です。」気を利かしたメンバーが人数分の缶ビールを買ってきてくれた。まずは乾杯、ビール缶片手にほろ酔い気分で残りの身支度を続けた。バケット前の慌しい時間を縫って、最後のミーティング。メンバーが思い思いのコメントを綴る。人によっては数年の歳月をかけて望んだWOC2008。その結果を受けてのコメントは人それぞれに重みがある。
さあてバンケット。各チームそれぞれに華やかに着飾ってトラムに乗り街中へ。欧米文化のはっきりとしたTPOを感じる時だ。日本女子もかわいらしいおそろいの服に身を包んだ。男子は?まあ皆それぞれのファッションセンスで。バンケット会場は、街中の建屋の中庭のような空間。料理やビールを囲んで乾杯。なにやら初めに挨拶のようなものもあったが、それ以外のイベント出し物は一切なし。ひたすら飲んで食べる珍しいバンケットだ。
自身のリレーの走りをまだ消化できてないせいだろうか、メダリストを追っかけたり、他国の選手に話しかける元気が沸いてこず、気がつくと1人でぼーと飲んでいた。俊介が話しかけてきた。バンケットの話題はいつも「今後」に収束する。全力でゴールに向けて走ってきた。結果はともあれ誰でもそこで迷う。「次はどこへ向かう?」
お互いの今後について、お互いぼんやりとしたビジョンを話し合った。10時の時計が廻ったところで、酒を控え、宿に向かった。流石に次の日の予定を考えると、無茶はできない。
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2度目のアラームでようやく体を起こした。鈍く体を起こしていると、まっちゃんが電気をつけてくれた。まだ自分の出発には早いが、見送りにわざわざおきてくれた。彼とは今回10日間ルームメイトとして共に過ごした。ベテランとして同じ方向を目指しつつも、異なる環境とアプローチでこの10年来競技を続けている。それぞれの境遇、今後についてベッドで語り合う機会も多かった。現実を考えれば夢満載の今後でもない。地に脚の付いたビジョン。それもまたWOC期間中の貴重な時間だった。
10日分のしつこい髭を剃り終えてホールに出ると、ほどなく俊介と石山さんも待っていた。予定の4時半。まだ暗い駐車場を出た。一路オロモウツからブルノ経由でプラハまで、約300km。時速120km/h前後で快適にドライブ。途中マックで朝食を取る。10時発の飛行機に乗るため8時前には空港に着く予定だったが、プラハ近郊に入ると渋滞が予想外に酷い。首都高のような渋滞にはまり何度となくハラハラする。ちょっと見通しが甘かったか。
それでも俊介の的確なナビに救われて、なんとか無事8時半にハーツレンタカーデスクにたどりついた。スペアタイヤの装着やクレジットカードの紛失など、旅のハプニングによるトラブルがあり、デスクでの混乱も心配されたが、幸いスムーズに事は運んだ。
便が遅い俊介、石山さんに短く別れを告げ、エールフランスのチェックインへ。のんびり30分待たされるところはやっぱりのどかさが残ってる国である。パリ経由で一路成田へ。トランジットのシャルル・ド・ゴール。加藤とラウンジで夜明けのコーヒーを飲んだのは調度10日前、はるか昔のことに感じる。
翌日のことを考えて成田への機内では睡眠をとるよう心がけるが3時間程度うとうとしただけか。
20代の頃は成田に着陸する時、現実へ戻るギャップに息苦しくなるような感覚を覚えた。例えれば、ビートルズのA Day in the Lifeでポールのコードに遷る瞬間のような、そんな感じ。
しかし今はそれ程の夢をWOCに感じていないせいか、成田に戻る瞬間の抵抗感は少ない。気がつくと今日やるべきことを頭の中で整理していた。
まとわり付くような熱気に出迎えられ、成田の出国はスムーズに過ぎた。飛行機を降りて1時間後には成田エキスプレスの中にいた。午後出勤には時間があるので、一旦自宅に戻ることに。西大井の駅に降り立つと暑い盛りの中、妻と娘が迎えに来ていてくれた。「あ、パパだ!、パパおかえり!」娘が喜んでくれたことにほっとした。人生が僕の20分の1しかない彼女にとってたった10日間は半年みたいなもんだから。
さっとシャワーを浴び、ひとしきり留守中の話を聴いた。お腹の状態があまりよくなく、もしかしたら予定より早く入院することになるかもしれない。今日も午後に病院にいくそうだ。留守中心細かったに違いない。若干後悔の念も浮かんだ。
寝不足と暑さに食欲のわかない胃に素麺を流し込で、小一時間一息してから会社に行く準備をした。
「取りあえず仕事のたまり具合みるだけから」
早目に会社から戻ることを約束して、再び西大井から横須賀線に乗った。
1万キロ離れたチェコの1週間が遠い国の夢物語かのように、日常生活がはじまった。
日曜日, 7月 27, 2008
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信越100mile 2022
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2 件のコメント:
お疲れ様でした。リレーはライブで観戦していました。いっとき、GPSのトラッキングが機能していなかったときは心配したけど!何はともあれ、日本代表男子としては準備してきたことがフルに発揮できたという意味では、良い世界選手権だったように思えたけどどうなんだろう。
ありがとう。リレーはまったくもって個人としては残念なレースでした。一生懸命脚を前に出しても進まない、そんな感じかな。
個人的にはロングでほぼ実力は出せたし、その分とっても充実感は感じてる。今まで協力してきてくれた人に本当に感謝したい気持ちで一杯だよ。
一方日本の結果を見ると、22位という結果は満足はできないけど、昨年日本チームを襲った悲壮感から多少は抜け出たと思う。でも漠然とした閉塞感からは抜けられてないね。その点は色々な選手のコメントを聞いて感じた。
今年のWOCを区切りにしている選手が多い分、この3年の日本のやり方の答えは出ている感じがする。それを踏まえて次の数年をどうするかが課題だね。
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